光の花は風に吹かれて
彼女を見つめたままのセストから視線を逸らしたローズは、ちょうど運ばれてきたメインディッシュにそれを落として「おいしそうですね」と言った。

いつもはセストが嫌になるくらい、真っ直ぐに向けてくる琥珀色の輝きが影って。

ローズを――この綺麗なバラを手折ったのはどんな男だったのだろう。

ローズはきっと、夫を愛していたのだと思う。そうでなければ、離縁をしてひとり涙を流すことなどはなかったはずだ。

政略結婚だとしても……ローズは相手を想っていた。少なくとも、彼を愛する努力をしたに違いない。

一緒にいれば、いつか想い合える日が来ると思っていたのかもしれない。

けれど、それはローズの儚い理想だった。裏切られたとき、彼女の心にはどれほどの棘が刺さったのか。

彼らの結婚の理由――ローズの利用価値――、それはきっと子を産むことだったのだろう。

周囲の人間の都合で嫁がされ、また連れ戻され……ローズの意思とは関係ないところですべてが決まり、彼女はただ人形のように持ち主の思うまま。

彼女が“子供を産めない”ということが本当だとして、それだけで女性にとってはショックだろう。更にそれが理由で離縁させられてローズの心はズタズタに切り裂かれたに違いない。

だが、その傷ついて散った花びらを“偽り”という残酷な風でかき集めてしまったのは、セスト。自分には、ローズの元夫を責める資格などない。

結局、その後は珍しく静かな食事となった。ローズはときどき「おいしいですね」などと出される料理について喋っていたけれど、食事はあまり進んでいなかった。
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