光の花は風に吹かれて
「きゃっ!?」

バシャン、と派手な音と共に悲鳴が響く。

思わず振り向いてしまったセストの視界に入ってきたのは水の中でもがいている彼女の姿。

「…………」

この泉は……そんなに深くないはずなのだが。

「はぁ……」

セストはため息をついて歩き出した。放っておいても死にはしないだろうが、さすがに溺れているらしい彼女を見捨てるのも人間としてどうかと思うわけで。

靴を脱ぎ、ズボンの裾を捲くって冷たい水の中へと足を入れた。こんな水に浸かっていたのか、と心底呆れながら、彼女の手を掴んで引き上げた。

「大丈夫ですか?」
「けほっ……は、はぁっ、ありがとうございます。助かりました。ちょっと足を滑らせ、て――」

彼女の言葉が不自然に途切れてセストはくるりと背を向けた。

「ご無事で何より。では、私はこれで」

セストは足早に泉を出て、靴を拾うと裸足のまま来た道を戻り始めた。

まずい。とても、まずい。

「ま、待って!待ってください!」

彼女の焦ったような声と水の音。だが、足を止めることなく進むセストに彼女は「待って!」ともう一度大きな声を出し、次の瞬間、セストの背中に抱きついた。

セストはその冷たさと、自分に降りかかるであろうこれからのことを思って身震いした。
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