光の花は風に吹かれて
「私は、自分の理想をセスト様に押し付けているだけです。夢の中のセスト様を……」
「理想は誰にでもあるものでしょう?夢にそれが出てくることは不思議なことじゃないですし、それに……今、ローズさんはセストさんと一緒に過ごしていてどう思うんですか?」

“今”という部分を強調して聞かれて、ローズは目を伏せた。

「セスト様は、優しいでしょう?こんな私を気にかけてくださって……」

ローズが縋れば温かい腕に包んでくれて、踏み込まれたくない事情もきちんと察して距離を保ってくれる。

「セスト様は優秀な方で、私の望むことをしてくださる。私は、わがままになってしまうのです。甘えているのです」

忙しい仕事の合間を縫ってケーキ屋さんにも行ってくれて、交流会にだって参加させてくれて……普段も出来るだけ一緒に食事をしてくれるし、寝坊をすれば心配して様子を見に来てくれる。

夢の中と同じ――いや、それ以上の男性。

「リア様もご存知の通り、私は1度結婚をしていますけれど、こんな気持ちになったことはなくて。夫の前では王女でいなくてはいけなかったから」

それが政略結婚というものだと頭では理解していても窮屈だった。

「でも、今は――セスト様の前ではそんなことがどうでも良くなってしまって、ずっとこんな日々が続くよう願っている身勝手な自分がいるのです」
「それは、ずっとセストさんと一緒にいたいと思っているってことですよね?」

リアの問いに頷くと、リアはクスッと笑ってローズの腕からルカを抱き上げた。

『まー、とー』
「うん、ありがとう」

ふわりと吹いた風に顔を上げると、少し離れたところにセストが立っていた。
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