光の花は風に吹かれて
「夜は罵られる夢を見るために眠れなくなり、昼は会う人皆の視線が“利用価値のない人間”と言っているような感覚に陥って……庭の隅で隠れるように過ごしました」

生きている意味さえわからなくなるほど。

「そんな日が続いて……でも、いつからかセスト様が夢に現れるようになって。貴方にお会いするために眠るようになりました」

ローズは涙を拭って顔を上げた。

セストの表情は硬いまま、口を引き結んで……ローズを見つめていた。

「何度も、何度も、貴方は夢の中で私を救ってくださいました。夢に出てくる優しい男性に恋をしている、と……気がついたら後宮を飛び出していたのです」

タイミングはバッチリだった。きっと夢と同じ世界にいけると、なぜか強く信じていた。

「現実の世界で貴方にお会いできて、とても嬉しくて。ご迷惑をおかけしていることもわかっています。でも、私と向き合ってくださるセスト様に……やっぱり恋をしているのです」

ローズに利用価値がなくても、ローズと一緒にいてくれるセストに恋をしている。“今”は、夢の中ではなくて、ローズと同じ世界に生きるセストのことが好きだ。

ローズは立ち上がってセストに近づいた。

セストとの距離は縮まるのに、セストの心との距離を縮める方法をローズは知らない。

「セスト様のことを、お慕いしております。もう少し……もう少しだけ、頑張ってみてはいけませんか?初めての恋を簡単に捨てたくないのです」

男性へのアプローチなど必要のない世界にいた。でも、今は違う。

ローズはセストの前で笑っていたい。もっとセストのことを知りたい。セストにローズのことを知ってもらいたい。

(聞いてもらいたかったのは……私を知ってもらいたかったからだわ)

……ようやくわかった。
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