光の花は風に吹かれて
Act.5:花はもうとっくに咲いています。
後悔はしていない。

元々、それがセストの責任だった。自分の蒔いた種を収穫すること――ローズの記憶を正してセストへの気持ちの真実を教える。それだけだった。

「――っ」

セストは執務室の机に両肘をついて額を握った拳に当てた。

もう少し頑張りたいと言ったローズの世界を壊した。

あまりにも酷なタイミングだったのではないか?

いや、違う。

本来ならば遅過ぎるくらいだった。もっと早く、花が育ち始める前に――種だけを掘り起こすべきだったのだ。

ローズの冷たくなっていく唇、震えて膝をついたときにほんの少し見えた表情、「さようなら」と言ったときの呼吸。

些細なことを思い出しては苦しくなる。

吹き飛ばしたのはローズの花の蕾ではなく、セストのそれだったのだと気づけるくらいには……自分の心は動いていた。

一途にセストを想い、後宮を抜け出してまで会いにきたローズ。

セストの前では笑顔でいたいのだと一生懸命に笑い、セストを知りたいからと朝も昼も夜もセストを待ち、返事も適当なセストに根気良く話しかけて。

健気なローズは少し強がりで、でも、隠し切れない悲しみに涙を見せるときは弱くて……セストの腕の中にすっぽりと収まる小さな身体。

けれど、愛と呼ぶには程遠いその花は握り潰さなければならない。大事にしてはいけない。
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