金色のネコは海を泳ぐ
部屋に入って、クローゼットから部屋着を取り出しベッドに放り投げる。

ため息をつきながらブラウスのボタンを外していると、ふと部屋の隅の揺りかごが目に付いた。

そういえば、片付けないままだった。

ジュストが改めて“家族”となった日から、ジュストには部屋が与えられた。

客室――実質、荷物置き場となっていたが――として開けていた部屋を片付け、グラートはジュストのために家具を買い揃え、壁紙まで張り替えたくらいだ。

とは言っても、まだほとんどの時間をネコとして過ごすジュストはルーチェの部屋に入り浸りで、やはり朝になるといつもルーチェのベッドにもぐりこんでいる。

ルーチェも最近はそれについて怒ることをやめた。少なくとも、そういうときはネコの姿なので大目に見ることにしている。

「ネコ……」

ジュストが“ネコ扱い”されることを嫌っているのは知っている。しかし、そう言い聞かせないと心臓に悪いのだ。

人間の姿が整っているせいで。年下のくせに妙な色気を持っているせいで。

長めの前髪を掻きあげる仕草や琥珀色の揺れる瞳、ルーチェに触れる指先……それに、形の良い唇が――

「だぁぁぁぁ!」

ルーチェは脱いだブラウスを床に叩きつけた。

一体何を考えているのだろう。ジュストはおそらくユベール王子とお姉さんの“キス”を見たことがあって、自分も真似しようと思っただけで!

小さな男の子が大人の真似をしたがるようなもので!

ルーチェは雑念を振り払うように洋服を脱ぎ捨てて部屋着を身につけた。
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