金色のネコは海を泳ぐ
頬が熱い。ちょっと、本当にちょっと……指先が、一瞬、触れただけだったのに。

ルーチェは閉めたドアにもたれかかって、ずるずると座り込んだ。

ドキドキとうるさい心臓に手を当ててギュッと服を掴む。

違う。

違う――

「違っ……」

手を叩いた後のジュストの表情が、昨夜ルーチェの頬に触れたときと同じだったから。

だから、ちょっと戸惑っただけ。

ジュストはこれからもっと人間らしくなって、外の世界へ出て行くためには“婿修行”とやらも必要で。

それは、別にルーチェのためではなくて彼が生活していくための知識を身につけるためのもの。ルーチェと離れるための修行。

今は理由がルーチェだけれど、そんなものはキッカケとして……ジュストのためになっているのだからそれでいい。

そう、自分自身に言い聞かせて、ルーチェは呼吸を整えた。

あぁ、もう。ダメなのはルーチェの方だ。どうしてもっと冷静に対応できないのだろう。ジュストは何事もなかったようにいつもの調子なのに――
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