金色のネコは海を泳ぐ
「――そう、なの……私っ」

ジュストの話を聞き終えると、ずっと瞳に溜めていたサラの涙がほんのりと桃色に色づく頬に伝った。

「どうして泣くの?」
「ごめ、なさ……嬉しくて。私に会いに来てくれて。私は……貴方のこと、何も知らなかったのに」

ジュストの存在は、今でこそ新聞にまで載るような事実となったけれど、サラがユベールへ嫁いだ頃はルミエール王国でも知っている者が数えるほどしかいなかった。

加えて、祖父母のもとで育ったサラは文字通り“箱入り娘”だった。死んだと聞かされていた母親が国王との子を産んでいたことも、ルミエール城へ入ってから知ったこと。

「いいんだよ。僕も、いっぱいわからないことがあって、今、勉強してるから」
「そう……いい人たちに出会えたみたいで、良かった」

サラは涙を拭って微笑んでくれた。

「ねぇ、姉様。兄様は?」
「ユベール様は、お買い物に行ってくれていて……もうすぐ帰ってくると思いますよ」

そう言って、サラはジュストのカップに温かい紅茶を注いでくれた。

「ケーキもどうぞ」
「これ、姉様が作ったの?」

大きな苺の乗ったショートケーキを差し出され、ジュストが聞くとサラは「はい」と、はにかんで笑う。

「わぁ……ルーチェのお母さんみたい!」

ジュストは真っ先に苺を口に入れた。ほのかな酸味と丁度いい甘さを味わいながら、ルーチェはいつも最後に苺を食べるな、なんて思い出す。
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