金色のネコは海を泳ぐ
「もう、またなの?2人ともうるさいわよ。診療所では静かにしてちょうだい。アリーチェ、貴女は言葉にも気をつけなさい」

騒ぎを聞きつけてやってきたブリジッタは、仁王立ちのアリーチェと壁際でシュンとしているルーチェを見てため息をついた。

「だって、見てよ!こんなに腫れちゃったのよ」
「あらあら……これじゃ、トラッタメントの実習再開はまだまだ先になりそうね」

アリーチェの真っ赤に腫れた腕を見てブリジッタはもう1度ため息をついた。ブリジッタが呪文を唱えるとアリーチェの腕はすぐに赤みが引いて、元の白い肌に戻っていく。

「これじゃあ、学校の課外授業と変わらないよ……」

ルーチェは肩を落として呟いた。養成学校では1週間ほど診療所の手伝いをするという実習があり、カルテの作り方などを現場で実際に学ぶことができるのだ。

もちろん、トラッタメントはやらせてもらえない。卒業試験合格が“仮免許”で、クラドールの監督下であればトラッタメントを施すことができるようになる。ルーチェも研修を始めてからすぐに実習をやっていた。

ところが、最初の患者さん――階段から足を滑らせたという近所のおばさんだったのだけれど――にトラッタメントを施したとき、あまりの痛みにおばさんが意識を飛ばすというありえない事態を引き起こしてしまった。

そこからトラッタメント禁止令が敷かれ、ルーチェの研修はほとんどがデスクワークである。

「さぁ、アリーチェ。これでいいでしょう?貴女は宿題をしなさい。ルーチェは受付のお手伝い」

アリーチェへのトラッタメントを終えて、ブリジッタが言った。

「「はーい」」

2人は同じ返事をしたけれど、ルーチェの声は低く沈んでいた。
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