金色のネコは海を泳ぐ
だが、ジュストは動かなかった。

ギュッと拳を握って視線を落とし、座ったまま。

「ジュスト!」

エミリー女王の怒りを含んだ声に、ルーチェはビクッとして顔を上げた。

ジュストとは違う、冷たい瞳がルーチェを見下ろしている。ルーチェはそれを受け止められなくて、俯いた。

そして、ジュストの腕を軽く叩く。

「ジュ、スト……ねぇ、ほら。お姉さんが――」
「ルーチェ、僕……僕っ!婿じゃなくてもいいから、だから、ここに居ていいでしょ?僕、ルミエールのお城は嫌いなんだ。帰りたくない」

ルーチェの手を掴み、ジュストが必死に訴えてくる。

「ジュスト、いい加減になさい!」

エミリー女王の怒りはヒートアップしていく。

「嫌だ!僕はここで暮らす!ルミエールのお城は僕の家じゃない!」
「ジュストっ!」

エミリー女王がジュストの腕を掴もうとして……それをクロヴィスが止めた。

「エミリー様、ジュスト様も突然のことで驚かれているのでしょう。ジュスト様も、バラルディ家にはかなりお世話になったご様子。少し別れを惜しむ時間があってもよろしいのでは?」

変わらず冷静な彼の言葉は、窓から差し込む暖かな日差しとは正反対に冷たい気がした。

「今日はここで失礼致しましょう。後日、私がお迎えに伺います」

クロヴィスは丁寧に頭を下げてエミリー女王を促し、エミリー女王も納得の行かない顔をしていたが、渋々といった様子でルーチェたちに背を向けた。
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