金色のネコは海を泳ぐ
「クロヴィスさん、だっけ?いつ、迎えに来るの?」
「ルー、チェ……?」

ジュストの瞳が戸惑いに揺れたのが、離れていてもわかった。

「ほ、本当に王子様だったんだね。私、王族の人に会うなんて一生ないと思ってた。マーレ王国の国王様や王子様だって本当に遠くからしか見たことないのに、こんな田舎の診療所にルミエール王国の女王様が来るなんてびっくりだよね?」

違う。言いたいのは、こんなことではないのに。

「ジュスト、ちゃんと元の生活に戻れるね?あ、王子様は料理や掃除はしないんだよ。ちゃんとお別れ会しようね。そのときは、私が料理作ってあげるから。楽しみに――」
「ルーチェ!」

流れ続ける言葉を止めたのはジュストだった。震えて……いる?

「ルーチェは、僕のこと……婿じゃなくても、好きって思ってくれてると思ってた。でも、違ったの?僕が、出て行っても……いいって思ってるの?」

ジュストはふらりとベッドへ向かって1歩踏み出した。

「ジュ、スト……」

ルーチェは後ろへ身体を引いたが、すぐに壁に背中がくっついた。ジュストがベッドに膝をつくと、その重みでベッドが沈んでルーチェの身体と……心が揺れた。
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