金色のネコは海を泳ぐ
「さよなら、しても……悲しくないの?」

ジュストの指先がルーチェの頬に触れた。

それは、今までで1番……悲しい温度な気がした。

ルーチェは唇を噛んで、俯いた。

「ねぇ、ルーチェ。僕――」
「悲しくない」

できるだけ声が震えないように、ルーチェはお腹に力を入れた。

「ジュストがルミエール王国に戻るのは、自然なことでしょ。それに、呪文のことも、ルミエール王国でなら……王族の人ならわかるかもしれないし。ジュストは人間に戻りたいんでしょ?」

結局、ルーチェは薬を作ることしかできなかった。その効果がどうして長くなったのかも原因は謎のまま……これ以上、ルーチェがしてあげられることはないように思えた。

ジュストはきちんと人間に戻るべきだ。きっと、ジュストの故郷ルミエールでならそれが可能だろう。

薬に頼る生活を終わらせる、ジュストを外の世界へ送り出す……いい機会。

「ジュストにはジュストの居場所があるの」

ルーチェの隣では、なく――

「……わかったよ。クロヴィスは、1週間後って言った。僕、ちゃんと帰るから……」

スッと。ジュストの熱が離れていく。

ルーチェはギュッと目を瞑った。ジュストを見たら、その熱に手を伸ばして引き止めてしまいそうだったから。

「おやすみ、ルーチェ」

ドアが閉まる音と同時に、ルーチェの瞳から涙が零れた。
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