金色のネコは海を泳ぐ

2:後編

波の静かな音と穏やかな風の音。

目を瞑れば、耳に届くのは爽やかな春の自然の声なのに……ルーチェの心はまるで冬のようだ。冷たい心はジュストと出会ったときのような海の温度に似ている。

ルーチェは重い足を引きずるように海岸を歩いていた。

見上げた空は、やっぱり頼んでもいない“コントラスト”を演出していて、ちょっと笑えた。

今日……

ジュストはルミエール王国に帰る。

最後のお別れをしなくてはいけないのに、ジュストの姿を――王子として家を出て行く彼を――見たくなかった。

ジュストは、ネコだったのに。

妙に賢くて、冷たい海を泳いでいたネコ。オロと名づけた金色のネコは、ルーチェをクラドールとして成長させた。

人間だとわかってからは、オトコを意識してうまくジュストに接することができなくて。それでも、ジュストは「好き」と……ルーチェにくっついて。

ルーチェも“好き”だと気づいたのは少し遅くて、お別れすらうまくできないルーチェには……ジュストも呆れてしまったのかもしれない。

「悲しくない」といってしまったあの夜から1週間、今日までジュストはルーチェに話しかけてくれることすらしなくなった。

もう、“家族”としてすら――

違う。ジュストは最初から、ルーチェの家族ではなかった。ジュストは死んだことにはなっていたけれど、ルミエール王国の王子様で、ルーチェにとって遠い存在。

それでも、ジュストの幼さとか、ルーチェのために少しずつ人間らしくなっていくところとか、「好き」と真っ直ぐに向けてくれる瞳に、ルーチェは知らないうちに恋に落ちた。
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