金色のネコは海を泳ぐ
「ちゃんと、お別れしにきた」
「――っ」

ジュストの寂しそうな笑顔に、ルーチェの胸が締め付けられる。

「今まで、ありがとう。僕のことを人間にしてくれて、ありがとう」

ルーチェの頬に涙が伝い、それをジュストが親指で拭った。その指先はとても優しい。

「ねぇ、残りの薬は持っていってもいいよね?お城でネコに戻ったら、皆びっくりするかもね」

クスクスと笑うジュスト。

「あ、でも、僕はもう死んでることになってるから、幽霊だと思われるかも」

ルーチェも最初、そう言った――

「ねぇ、ルーチェ。泣いてるのは、悲しいからだよね?」
「――っ、ぅっ……」

言葉が出てこなくて、ルーチェはジュストを見上げた。

違う。悲しいからじゃない――

「……ルーチェ。ちゃんと言って?ルーチェはいつも教えてくれない。でも、最後くらい、いいでしょ?泣いてるのは、どうして?」

それでも、ルーチェの口から“その”言葉が音になって出てくることはなくて。

最後だから言ってしまおうか、最後だからこそ言ってはいけないのか……

そんな葛藤に心が波のように揺れた。
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