金色のネコは海を泳ぐ
ジュストはしばらくルーチェの言葉を待っていたけれど、やがてそっと息を吐いて沈黙を破った。

「……ごめんね」

その声はとても悲しい音だった。

ジュストが謝ることなど、何もないのに。

ルーチェは涙で声が出なくて、首を振った。

こんなんじゃ伝わらないとわかっているのに、どうしても言葉にならない。

「僕、頼りないよね?ネコだし、婿の条件も満たしてないし、もう……さよなら、だもんね」
「違っ――」

せっかく音になったルーチェの言葉を、今度はジュストが遮った。

久しぶりのジュストの体温。

ぎゅっと抱き締められて、まるで赤ちゃんをあやすかのようにポンポンと背中を優しく叩かれる。

「逃げないで。これで、最後だから、ちょっとだけ……お願い」

ジュストはルーチェの首筋に頬を摺り寄せた。

「ジュスト……」
「ルーチェの匂い、甘くて好き……もう泣かないで?笑ってよ」

そう言うと、ジュストはルーチェから身体を離してもう1度涙を拭ってくれた。

「……楽しかった。ルーチェと過ごせて……ありがとう」

同時に、ジュストの手が離れていく。

溢れる新しい涙を拭わないまま――
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