金色のネコは海を泳ぐ
『ジュスト』

その声は、ルーチェの脳に直接響いた。

「母様?」
「え……」

ジュストは呆然と視線を彷徨わせている。

『ルーチェははじめまして。私はシュゼット、ジュストの母親よ。ジュスト……ごめんね。貴方に呪文をかけたのは、私なの』

高めの声は落ち着いていて、すんなりとルーチェの中に入ってくるようだ。

『貴方がずっと眠っていたのも、ネコになったのも、私の呪文のせいよ。でも、もうそれも解けた……ルーチェとのキスで、ね?』

優しく笑う声。

「どう、して?母様……?」
『私はね……愛を見つけられなかった。サラの父親も、私を愛してはいなかったのよ』

サラ――ジュストとお母さんが同じ、ジュストのお姉さん。ユベール王子のお嫁さんだ。

シュゼットは、寂しそうな声でジュストが生まれる前の話をしてくれた――…

ダミアン前国王に気に入られたシュゼットは、サラを産んだ後すぐに後宮へと無理矢理入れられた。間もなくジュストを身ごもって、愛などなく実を結んだ命を捨てたくて仕方なかったという。

だが、王家の血を引くジュストはお腹の中にいるときから母親とのコミュニケーションを図ろうとして……その存在に、命の重さに触れて、ジュストを生かそうと考え直した。

『でもね、私のような思いはして欲しくなかった。王家に縛られた貴方はきっと……自由を、愛を、知らないまま生きると思ったわ』

だから、呪文を掛けることを思いついた。
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