金色のネコは海を泳ぐ
クラドールへの道のりは決して楽ではない。マーレ王国が優秀な人材を生むのは、水属性というトラッタメント――治療――に向いている呪文性質に恵まれているからだ。

しかし、人の命を扱う仕事だ。もちろんそれだけで成り立つ職業ではない。

皆、血の滲む努力をしてたくさんの知識を頭に叩き込み、試験を通って、研修をこなし、ようやく1人前と認められるのだ。

養成学校の卒業試験はその入り口、第一関門に過ぎない。養成学校で基礎を学んで卒業試験に受かったら、研修生として診療所でクラドールの手伝いをしながら国家試験の勉強、国家試験に受かってようやく自分の診療所を持つことができる。

そこまで辿り着くのに、最短でも6年――養成学校で4年、研修で2年――がかかる。国家試験の受験資格に研修2年が含まれているからだ。

だが、ストレートでクラドールになれる者は珍しい。平均的には7~8年かけて資格を取る。

更に、王家専属クラドール――王国の城に仕えるクラドール――になるためには、国家試験よりも難しい試験に通らなければならないし、適正審査などもある。

王家専属まで目指さないにしても、卒業試験に1年をかけているルーチェがクラドールになる頃には自分がクラドールにお世話になる立場になってしまうのではないか。

「はぁ……」

ルーチェはもう1度ため息をついて、今度は海に向かって立った。

太陽の光に照らされて、波が光って揺れている。ルーチェはこの景色が大好きだった。

だからこそ、落ち込んだ日は自分の1番好きな海を見るためにこの場所を歩く。

しかし――
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