金色のネコは海を泳ぐ
「あれ、お子さんが生まれるんですか?」

そうやって男性を観察していたら、彼の持っている本が出産関係のものだということに気づいた。

「あぁ、うん。生まれるのはまだ先だけどね。ついこの間、わかってさ」
「そうなんですか。おめでとうございます」

ルーチェがそう言うと、男性は「ありがとう」と言って笑った。

「にゃー?」
「そうだよ。大丈夫、僕の可愛いお嫁さんもちょっと悪阻がつらそうだけど、元気だから」

やはりオロと会話をしているらしい男性。ルーチェにはサッパリ内容がわからない。なぜ、奥さんの話をオロとしているのだろう?

「あの、オロの言葉がわかるんですか?」
「ん?まぁ……少しね」

曖昧に答える男性はクスッと笑ってルーチェを琥珀色の瞳に映した。

「君と少し雰囲気が似てるかな。だから、オロが懐いたのかもね?」
「はぁ……」

ルーチェは更に首を傾げる。今日はそればっかりで、首が曲がってしまいそうだ。まったく話が読めない。

「じゃあ、僕は帰るよ。可愛いお嫁さんと女の子……あ、男の子も待ってるから」
「あ、あの、一体貴方は……あの、えっと」

何者なんですか、とは言いにくくて少し言葉を濁す。すると、男性はまたクスクス笑って――

「僕?そうだねぇ……“お兄さん”って呼んでくれたらいいんじゃない?」

そう言って、男性は足早に帰ってしまった。首を傾げるルーチェと「にゃー」と鳴くオロを残して。
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