晴れのち雨
「あんな...葵に一つ、お願いがあるねんけど...」
「お願い?珍しいね」
「うん。新しいスーツ一緒に選んでくれへん?」
「良いよ。」
先生はいつも廃れたスーツを着ていたな...
「いつも着てるボロいスーツあるやろ?
あれ昔、嫁に選んでもろたやつやねん」
前を向いたままの先生。
その瞳はどこか遠くを見ている様だった。
「良いの?新しいの買っちゃって。」
「うん。俺も前に進まなアカンし、いつまでボロボロのスーツ着てたら嫁に怒られるわ」
「波美さんですよね? そんなに恐い方だったんですか?」
先生は少し驚いた顔をしたが
「龍馬か...」と呟いて、
「うん。めちゃくちゃ恐かったな。」
と苦笑いをしながら答えてくれた。
「でも、ホンマは優しい人やねん。
ああ見えてしっかりしてるし、不器用やけど家族思いの人やった。」
「素敵な人ですね。」
「うん。でも、葵も負けてへんで」
「ふふっ。波美さんに負けてられませんね」
初めて先生から家族のことが聞けて、
少しは先生との距離が縮まったかな。