晴れのち雨
雨が頻りに降る。
煙草を口に銜えようとした先生に
「保坂先生!」
雨音に消されないように呼んだ。
「おっ!やっぱりアオちゃんか〜」
煙草を片付けてにっこり笑う。
雨でいつもより暗い路地裏なのに
先生の笑顔だけははっきりと見えた。
「先生に伝えたいことがあって、会いにきました。」
先生の茶色い瞳を真っ直ぐに見た。
「アオちゃんも先生に別れの言葉をくれるんかな?」
首を傾げて嬉しそうな顔をする。
用意していた言葉を言おうと
口を開いた瞬間、雷が鳴った。
「アオちゃん、とりあえず雷鳴ってきたから塾に戻ろか」
そう言って私の肩に手を添える。
動かない私に「どうしたん?」
顔を覗いてくる。
何も言わずにただ首を横に振る私。
「んじゃあ、あっち行こか」
と塾とは反対方向にあるビルの軒下を指差す。
私が頷くのを確認すると
傘を持っていない手で私の手を引いた。
ビルの軒下に着くと傘を畳みながら
「相談事??」
と先生は私に尋ねた。
「違います。」
とだけ答えて、傘を畳み終えると
姿勢を正し、先生を見つめた。