大人の関係
「桐原さん。会えて良かった」

はっとして顔を上げると、長野政信(ながのまさのぶ)が立っていた。
同じオフィスビルに入っている会社の人だ。
半年ほど前に、あるきっかけで知り合った。

「この間、ハンカチを落としてたでしょう。僕が預かってたんだ。今日は金曜日だからここに来るかな。と思って」
「ありがとうございます。すいません。お手数かけて。しかも洗濯までして頂いたんですね」
そっとハンカチを手渡される。
受け取った瞬間、手の中でかさっという乾いた音がした。
ちょっと目を見開いたが、何事もなかったようにお辞儀をし、かばんの中にハンカチを仕舞い込む。
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