大人の関係
美沙はボストンバッグとハンドバッグを玄関脇に置いて、もう一度二階へ上がった。


ゆっくり歩いて回る。

今は朝の光が差し込んでいるサンルーム。
落ち着きのある寝室。
ソファで寛いだリビング。

長野とのゆったりとだが濃密な時間を思い出す。



今まで考えないようにしていた長野との未来を意識してしまった。


だが、それはやはり二人の未来ではなかったのだ。

二人だけの時間を過ごすためにやってきたはずなのに、今、一人でこの別荘を去ろうという現実。


それが二人の未来なのだろう。

ここに来たのは運命だったのかもしれない。
胸が苦しいのに、なぜか笑いが零れる。


逃げるように玄関に向かい、荷物を手に玄関扉に手を掛けた。

長年、二人で暮らしてきた家を離れるような錯覚を感じ、振り返る。






「さようなら」
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