Last flower【執筆中】
10.
カチャン!

ーと、隣りのユルカが、ふいにスプーンを取り落とし、

「ごめんなさい!」

慌てて言ったユルカの声を聞いた、ちょうどカスカ達の真後ろに背中を向けて座っていた男の子が、一足先に落ちたスプーンを取り上げ、

「新しいの、もらってくる」

目を伏せたままそう言い、立ち上がっていった。

(ー編み物をしていた、あの男の子だ・・・)

吐き散らかしたくなるような味の、冷めたビーンズスープをかき混ぜながら、カスカの胸は何故だか一瞬ドキリと鳴った。

無言で新しいスプーンを差し出した彼に、ユルカは「ありがとう」と小さく笑い、

彼は小さくお辞儀のような動作をして、自分の食事に戻った。

伏せた目の頬に落ちる睫毛が長かった。笑わない、男の子。少し掠れた声。

名前は…まだ知らない。

なのにどうしてか、彼と背中合わせに座っている事がやたら気になる。

真後ろ、振り向けばすぐの距離。微かな緊張感。

思わず背筋が、ぴんと伸びる。

ふとカスカが隣りを見ると、ユルカの背筋もピンと伸び、所在無げに白色パンをちぎりながら、あまり食事がすすまない様子に見えた。


これは内緒の話。双子達は昔、テレパシーで会話が出来た。

両親を始め、近所に住む友達たちも、全くそれを信じていなかったけれど。

双子はよくお互いの、艶々とした長い髪を編み込んだりして遊んでいた。

『きれいにできたし、お花も飾ろうか?』『うん。飾りたいな』

ただの会話だけではなく、内緒の話がある時は、いつだってテレパシーを使っていた。

けれども近頃では、ユルカの気持ちがカスカの頭に入って来ることがない。

そのことについて、ユルカが何かを言って来る事もない。それがカスカには寂しかった。

本当に大切なこと。それが何かはちっともわからないけれど、

ユルカの内側にある本当の気持ちを、聞くことが出来なくなってしまったのが、とても寂しい。
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