Last flower【執筆中】
13.
カスカの思考を遮るように、突然、廊下に取り付けてあるスピーカーから、大人の女の歌声が響いた。

『ハッピバースデーツゥーユー、ハッピバースデーツゥーユー、ハッピバースデーディアー…』

『ポーンちゃーん♪ハッピバースデーツゥーユー♪』

続いて、数人かのパチパチという疎らな拍手。

その後に喋ったのは、motherの声だと思う。

『皆さぁん。あと一週間でポンタの五歳のお誕生日です。

いつものように、めいめいプレゼントを作り、食堂の飾りつけをして

私達の愛する家族の誕生日をお祝いしましょう!』

「うざ…」

かき上げた髪を金色の糸のようにしゃらしゃらと肩に落としながらチャルが呟く。

『ポン』という名前には聞き覚えがある。あの、虫食い歯で卑屈に笑った少年。

ふと、ユルカを見たら、ユルカはもう先にこちらを見ていた。少し、顔色が悪い。

「大丈夫?…あの…」

『生理痛』という言葉は知っているけれど、その痛みをまだ知らないカスカには、口に出すのが難しかった。

そんなカスカの気持ちをそっと汲み取るようにユルカは微笑み、こくりと頷いた。そして

「ここにいる子、全員のお誕生会をするの?」

珍しくチャルに自分から問いかけた。

「んーまーね。ぬるいアットホーム的なね。そういうとこだし、ここ」

いつの間にか、爪の甘皮を処理する道具の細かな音を鳴らし、指先を見つめながら俯くチャルは答えた。

「…ところで今、私に声かけたのって、どっちなの?」

なんて。

今さら、そんな事をけろりと言うところがチャルらしい。

「らしい」なんて言えるほど親しくはないけれど、なんだかそれがとても彼女っぽく思えて、カスカの心はほんの少し、和んだ。
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