Last flower【執筆中】
7.
その後気まずい空気の中で、カスカに話しかけてきたのは、motherと給食を配膳をしに来た白衣のオバさんだけだった。

怒鳴ってさっぱりしたせいか、少し清々しい気持ちになったカスカは、ユルカと手を繋ぎ部屋に戻った。

すると、初対面とはうって変わった懐っこい笑顔を向けながら、チャルが話しかけてきた。

「まずかったでしょ?ここの給食」

「まずかった。あれっくらいなら、道端のゴミ箱でも漁った方が千倍マシかも」

もう既に、カスカは大人しさを気取る気なんて微塵もなくなっていたから、すらすらと言葉が口をついて出てきた。

クククッとチャルが笑う。それはつい先程の少年達のものとは違う、不思議と不快にはならない笑いだった。

「で、あんた達さ、結局Sなんだっけ?Mなんだっけ?」

温度調節がうまくできない壊れかけのシャワーを浴びて部屋に戻り、まだやまない大きな雨音に閉ざされた部屋の中でチャルと双子達は、すっかり寛いで話せるようになった。

ほんの数時間前に会ったばかりなのに、彼女には何を話してもいいような、何を言っても平気で笑って受け止めてくれるような魅力を感じた。

だから、カスカはここへやって来た経緯を全て話し、静かに私の隣りに座っているユルカも、時々話に加わった。

「へえー。そんじゃ、あんた達の言う通りね。SだしMよね。うわ、最悪な人生じゃん!」

キャラキャラとまた鈴の音のように、チャルは屈託なく笑った。けれど、やっぱり少しも腹が立たない。

たぶんこれはカスカの勝手な想像と、チャルの首に残っている蚯蚓のような無数の傷跡を見たせいだと思うけれど、彼女も相当に酷い人生を今まで送って来たのだろう。

だからきっと彼女の言う事には、腹が立たないんだと思う。

チャルは14歳。もっとうんと大人びて見えたから、双子達は少し驚いた。

早朝、ここにやって来てからの出来事は、不愉快で憂鬱で腹立たしい事ばかりだったけれど、チャルと相部屋になったのは不幸中の幸いだなとカスカは思った。

カビ臭い布団の中で、色んな話をしながら夜を過ごした。そして少しずつ眠気に囚われた三人は心地良く眠りについた。

こんなふうにこの場所での初日を、ゆったりとした気持ちで終えられるとは全く思っていなかったから、意外な幸運にカスカは感謝した。
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