Last flower【執筆中】
8.
真夜中、雨音がだいぶ弱まって来た頃、掛けていた布団にふわりと外の空気が揺れながら入って来た時、カスカはふと目を覚ました。
隣りに寝ていたユルカの、シルエットがぼんやり静かに動いている。
「ユルカ…?どうしたの?」
真っ暗な部屋の中、ユルカの表情は見えなかったけれど、なんとなく緊張が走ったような間が空いた。そして、
「うん。トイレ、行って来る」
ごめんね、起こして。と言って、ユルカはゆっくりとドアの向こうに消えていった。
「マザぁーー!!マザーさまぁーーーー!!!!!」
ほの暗い静かな朝方、不必要に大きな声で、目が覚めた。
あの声は、昨夜私達に「宜しくね!!」と笑って挨拶をした、少し頭が弱そうなぶくぶく太った女の子のそれだと、すぐに気がついた。
泣き笑いのようなその声は、廊下を行ったり来たりしている。彼女が歩く振動で、床板が揺れた。
チャルとユルカも次々に目を覚ました。午前五時。決められている起床時間まであと二時間はあった。
チャルは気だるそうに金の髪をかき上げながら、「うるさいなぁもー…なんなのよアンコ、あいつ……」とぼやきながら布団から出た。
他の部屋の子供達も、ただ事でない騒がしさに、次々に目覚め廊下へと出て来たらしい。
motherもやっとアンコの傍へ駆けつけて来たところだった。
「どうしたの?何があったの?」
motherの言葉にアンコは、1km先にいる相手に叫ぶように言った。
「mother様ぁぁぁぁ!!ミ、ミノルがぁぁぁぁ!!ミノルが裏の、どろどろ川でぇぇぇ!!!し、死んでいますぅぅぅぅぅ!!!!!!」
そのまま巨体の少女は、吼えるように泣き崩れた。motherは少し蒼白い顔をして、無言で外へと飛び出した。
それにつられるように双子達とチャル、そして起き出していた子供たちのほぼ全員がmotherの後を追った。
いつのまにか雨は上がっていた。薄いミルク色の靄がかかる早朝は、雨の雫でキラキラときらめいている。
ぬかる土に足を取られながら、建物の裏手にあるという『どろどろ川』に辿り着いた時、冗談みたいに顔だけを川に突っ込み、両手両足を投げ出した格好で動かなくなっている男の子の姿が目に飛び込んできた。
洗面器一杯の水でも、人間は死ねるというけれど。こんなにちゃちな浅いドブ川でも人は死のうと思えば死ねるんだ。
ユルカの手を硬く握りしめ、カスカは少し、震えていた。
いつの間にか、どこから湧いてでたのか数人の大人達とmotherが彼を川から引っ張り上げた。
クタクタになって顔に貼りついていたのは、茶色い紙袋。…あの子だ。
ぐんにゃりと破れかけた紙袋をmotherが取り除くと、顔の半分以上が火傷の跡で痛々しい、けれども意外なほど可愛らしい顔立ちの男の子の顔が見えた。
投げ出された彼の右手は、しっかりとどろんこの「イェーイェー」を握っていた。
隣りに寝ていたユルカの、シルエットがぼんやり静かに動いている。
「ユルカ…?どうしたの?」
真っ暗な部屋の中、ユルカの表情は見えなかったけれど、なんとなく緊張が走ったような間が空いた。そして、
「うん。トイレ、行って来る」
ごめんね、起こして。と言って、ユルカはゆっくりとドアの向こうに消えていった。
「マザぁーー!!マザーさまぁーーーー!!!!!」
ほの暗い静かな朝方、不必要に大きな声で、目が覚めた。
あの声は、昨夜私達に「宜しくね!!」と笑って挨拶をした、少し頭が弱そうなぶくぶく太った女の子のそれだと、すぐに気がついた。
泣き笑いのようなその声は、廊下を行ったり来たりしている。彼女が歩く振動で、床板が揺れた。
チャルとユルカも次々に目を覚ました。午前五時。決められている起床時間まであと二時間はあった。
チャルは気だるそうに金の髪をかき上げながら、「うるさいなぁもー…なんなのよアンコ、あいつ……」とぼやきながら布団から出た。
他の部屋の子供達も、ただ事でない騒がしさに、次々に目覚め廊下へと出て来たらしい。
motherもやっとアンコの傍へ駆けつけて来たところだった。
「どうしたの?何があったの?」
motherの言葉にアンコは、1km先にいる相手に叫ぶように言った。
「mother様ぁぁぁぁ!!ミ、ミノルがぁぁぁぁ!!ミノルが裏の、どろどろ川でぇぇぇ!!!し、死んでいますぅぅぅぅぅ!!!!!!」
そのまま巨体の少女は、吼えるように泣き崩れた。motherは少し蒼白い顔をして、無言で外へと飛び出した。
それにつられるように双子達とチャル、そして起き出していた子供たちのほぼ全員がmotherの後を追った。
いつのまにか雨は上がっていた。薄いミルク色の靄がかかる早朝は、雨の雫でキラキラときらめいている。
ぬかる土に足を取られながら、建物の裏手にあるという『どろどろ川』に辿り着いた時、冗談みたいに顔だけを川に突っ込み、両手両足を投げ出した格好で動かなくなっている男の子の姿が目に飛び込んできた。
洗面器一杯の水でも、人間は死ねるというけれど。こんなにちゃちな浅いドブ川でも人は死のうと思えば死ねるんだ。
ユルカの手を硬く握りしめ、カスカは少し、震えていた。
いつの間にか、どこから湧いてでたのか数人の大人達とmotherが彼を川から引っ張り上げた。
クタクタになって顔に貼りついていたのは、茶色い紙袋。…あの子だ。
ぐんにゃりと破れかけた紙袋をmotherが取り除くと、顔の半分以上が火傷の跡で痛々しい、けれども意外なほど可愛らしい顔立ちの男の子の顔が見えた。
投げ出された彼の右手は、しっかりとどろんこの「イェーイェー」を握っていた。