恋の訪れ
「そろそろあたし帰るわ。…莉音も帰った方がいいんじゃないの?」
スッと立ち上がった香澄先輩は肩に鞄を掛け、あたしを見下ろす。
「うん、莉音帰んな。ママ達心配するよ?」
「そうだね」
苦笑い気味で立ち上がったあたしは鞄を掴んで部屋を出る。
玄関先で真理子と別れた後、途中の分れ道まで香澄先輩と肩を並べて歩いた。
「どう?…耳」
あたしより数センチ高い香澄先輩は、あたしの右側から見下ろす様に視線を送る。
「うん、大丈夫」
「あんまストレス溜めない方がいいよ。あんたスグ痛いって言うから」
「…うん」
こうやって、心配してくれて、頼んでもないのに自然にみんなあたしの右側に立つ。
それはあたしの左耳の所為でもあるから。
なんでか知んないけど昔っから疲労とかストレスが溜まっちゃうと、耳にくる傾向があり、聞き取りにくくなる。
自分では分かんないんだけど、すぐに痛いって、言ってるみたい。