恋の訪れ
「もう、ここでいいです」
もう少しで家って所で、あたしは自分の足を力強く地面につけて自転車を止めた。
昴先輩は何も言わずに、あたしに鞄を差し出してくれる。
ほら、またあたしの家の近くまで来てんじゃん。
あたし言ってないよ、昴先輩に。
教えてないよ、あたしの家。
教えたか、教えてないのかぐらい分かってる。
あたしそこまで馬鹿じゃないもん。
「なんで知ってるんですか?あたしの家…」
鞄を抱えたまま昴先輩を見つめる。
だけど先輩は、スッとあたしから視線を逸らした。
なんで、逸らしたの?
ヤバい。バレた?なんて思ったわけ?
なのに…
「は?お前が教えただろーが」
絶対に教えた覚えもないのに昴先輩はそう言った。
「あたしが?」
「あぁ」
「いつ?」
「前ん時だよ」
「…記憶ないです」
「あっそ」
…やっぱ最低。
昴先輩は冷たい男だ。
こんな冷たい男だと女は必ず泣くに決まってる。
「ありがとうございます」
とりあえず素っ気なくお礼を言って、あたしは家まで帰った。