恋の訪れ

「痛いよ、真理子」

「さっきサクヤ先輩無視したくせに」


スッと頬から手を放した真理子は耳打ちするかのように呟き、思わず隣に居るヒロ君を見上げた。


「ん?どした?」


あたしの視線に気づいたヒロ君は首を傾げながらあたしを見る。

良かった。聞こえてなかったんだ。


「う、ううん…。ちょっと真理子がおかしいの」


ホッとして安堵のため息を吐き捨てて、真理子を睨んだ。


「え、真理子が?」

「ちょっと莉音!!何言ってんの?おかしいのはアンタでしょーが」

「おいおい、お前ら仲良いのか悪いのか分かんねーな」

「だってね、真理子いつもあたしに意地悪すんだよ?」


ヒロくんに向かってそう言うと、ヒロ君は困ったように苦笑いをした。


「おい、真理子やめろよ。莉音が困ってんじゃねーかよ」

「はいっ!?元はと言えば弘晃が悪いんだから!」

「はぁ?だからなんで俺なんだよ。もう訳分かんねーんだけど」

「ねぇーヒロくん。訳分かんないよね」

「あぁ…、じゃーな」


丁度、教室の前まで来るとヒロ君は自分のクラスに入ってった。

その直後、バシンと思いっきり真理子に背中を叩かれた所為で、身体が飛び跳ねる。


「痛いよ、真理子!」


腕を背中に回し、何度か手で摩るあたしは顔を顰めた。
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