恋の訪れ
「りーおんちゃんっ!」
弾けた声と同時に肩をポンっと叩かれた。
昇降口で靴を履き替えて、出ようとした瞬間、サクヤ先輩が不敵な笑みを漏らしてあたしの目の前に立った。
「あっ…」
…最悪。
まさか出会うとは。
「今朝、俺の事、無視したっしょ?」
「え、今朝?」
「そうそう。手、振ったのに」
「さぁー…」
首を傾げて惚けてみるものの、サクヤ先輩はフッと鼻で笑う。
「俺と目合ったのに、知らないわけないっしょ?」
「忘れました」
「ふーん…俺よりヒロくんな訳?誰かと比べてヒロくんは優しいよねって、それって俺らと比べてんの?」
不敵にクスクス笑う先輩がたまらなく嫌。
と同時に、ダンっと昇降口のドアに背を付けられ、サクヤ先輩の両腕に塞ぎ込まれた。
「な、なにしてるんですか?」
両腕に塞がれたサクヤ先輩の腕を左右に見て、軽く先輩の胸を押す。
だけどサクヤ先輩は口角を上げたまま離れようとはしなかった。
「何って、壁ドン…」
「ちょ、やめて下さいよ」
「だって最近、莉音ちゃん冷たいっしょ?俺の方がきっと大事にする」
「え、えぇっ。こ、困ります…先輩」
「だって無視されたらそれなりに傷つくしねー…俺としてのプライドが」
「は、はいっ!?」
「この俺を無視するなんてね…前代未聞だわ」
「……」
「俺の傷…癒してよ―――…」
「つーか、そいつ抱いても癒されねーだろ」
不意に聞こえたその声に、サクヤ先輩から視線を外すと、そこには昴先輩が馬鹿っぽく笑ってた。