恋の訪れ
そのまま徐々に降りて来る昴先輩の顔に思わずあたしは先輩の両肩に手を置き、阻止する。
「な、なにするんですか?」
焦るあたしに昴先輩は口角を上げた。
「…キスって言ったらどうする?」
「え、先輩…また馬鹿にしてます?」
「してない。莉音としたいって言ったら″いいよ″って言わねーの?」
「え、何言ってるんですか、先輩…やめてよ」
「してい?」
見下ろされる先輩の顔が途轍もなく端正だった。
前からそんな事、知ってたけど、こんな近くで見る顔が物凄くカッコいいと思ってしまった、あたしは情けない。
こんな先輩の事…
真剣に見つめて来る先輩の顔から背けると同時に、また馬鹿っぽく笑う昴先輩の声が聞こえる。
また、からかわれた…
「…最低」
小さく呟いてしまったのにも係わらず、先輩はあたしの真上から離れない。
そして。
「俺のファーストキス奪ったの莉音じゃん」
「はい?」
そう言ってきた昴先輩に思わず目を見開き視線を向けた。
今、なんて言ったの?
そのかち合った瞳から昴先輩は再び口角を上げる。
「覚えてねーの?小さい頃、″昴くん好きだよ。昴くんとキスしたい″って言ったの莉音じゃん」
「はい?なに言ってるの?」
「何って、お前が言った事」
「嘘、言ってないよ、そんな事」
「俺の唇、強引に何度も奪っといて、知らねーってなんだよ、それ」
「えっ、強引?…って、えぇっ…」
「あの時のお前は積極的だった。なのに今のお前とは全然違げーじゃん」
そう言って真上から馬鹿っぽく鼻で笑った昴先輩が…やっぱムカつく。