恋の訪れ
「そ、それは先輩も一緒じゃん。ってか、もう寝ましょう…」
”あたしも寝るんで”
付け加えるように言って、真上にいる先輩の身体を押す。
これ以上、もうこんな話したくない。むしろ、あたしが強引だったとか積極的だったとか。
先輩のファーストキスを奪ったとか。訳のわからない話なんてしたくない。
そんな記憶すら一切覚えてなんか、ない。
なのに。
「つかお前の所為で眠さすら吹っ飛んだんだけど」
「そ、そんな事知りませんよ。お願いですから離れてください」
グッとさっきよりも力強く押したのにも係わらず先輩は動こうともしない。
なんなの、なんて思った時、
「サクヤとヤったってほんと?」
「え、えぇっ!?」
あまりの衝撃の言葉に目眩が起きそうだった。
「サクヤがさ、気持ち良かったって。だから莉音がそのまま眠って起きないからって」
「えっ、ちょっ、あたしサクヤ先輩と!?」
「お前、そんなのも覚えてねーの?」
「だって、あたし眠ってただけで…」
自分の目が自棄に激しく泳ぐのが分かる。
視点が合わないまま目の前に居る昴先輩の顔が歪む。
あたし、サクヤ先輩と?
だって眠ってただけでしょ?
それすら記憶がないあたしに、さっきまで真剣だった昴先輩は、また意地悪く笑ってそのままあたしの真上から離れて行った。