恋の訪れ

「嘘に決まってんだろ。お前抱いても癒されねーだろーし」

「はぁ!?」


ゴロンと横になった先輩に思わず大きな声を上げ、今度はあたしが身体を起し、横から先輩を見下ろした。


「アイツも女には困ってねーしな。ま、そう言って呼び出されたのはホントだけど」

「ちょ、なんなんですか?ほんと昴先輩ってムカつく」

「そんなムカつく奴に何度、お前は助けてもらってんの?」

「え?」

「お前が調子悪くなった時、何度家まで連れて帰ったと思ってんの?」

「……」

「それこそ、お前…そこらの道端で倒れてたら誰かに犯されてんぞ」

「…っ、」


見覚えがあるものの、これ以上何も言えなかった。

合コンをした帰りの日、気分悪くなって、記憶がないまま昴先輩に送ってもらった。

バーベキューをした日だって、送ってもらった。

皆でアミューズメントに行った日だって送ってもらった。


学校で倒れた時も保健室に連れて行ってもらった。

こうして考えると、昴先輩にはもの凄く助けてもらってる。


だけど、何で?

あたしを知ってたからなの?

意地悪ばかりするのに、なんでなの?


「…先輩、なんで?」


腕で視界を隠す昴先輩を、あたしは見下ろす。

その先輩から密かに漏れた小さなため息が、やけに大きく聞こえた。
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