恋の訪れ
「で、もちろんヤったっしょ?」
「ちょ、先輩、大きな声出さないで下さい」
辺りを見渡しながら唇に人差し指をそっと立てる。
「って事はヤったんだ」
「何もないですから!」
ニコニコしてた先輩はその言葉で、がっくりしたかのようにため息を吐き出す。
「え、何で?俺、そのために昴と変わったんだけど」
「ってか先輩!酷いです!なんで起こしてくれなかったんですか?」
「いやいや莉音ちゃんが寝んのが悪いんだろ?寝るなよって言ったのに。それにマジで起きねーから困ったんだけど」
「それは…ごめんなさい」
「で、昴から聞けた?聞きたかったこと」
「聞きましたよ。でもサクヤ先輩も酷いですね。言ってくれてもいいのに…」
「だって昴に口止めされてたし。ま、その分、俺は楽しめたよ」
「こわっ、先輩って怖いですね」
「だから昴との仲を深めさせてあげようと思ってんのに、何もねーなんてありえねーわ。だったら莉音ちゃんとヤれば良かった」
「え、えぇっ!?」
昇降口に来た途端、思わず大きな声を出してしまったあたしに先輩はクスクス笑みを漏らす。
やっぱ危険だわ、この先輩。
「って言うかさ、莉音ちゃんってマジ可愛いよな」
こんな朝っぱらから昇降口で、しかもゾロゾロ来てる生徒たちの前で、先輩はあたしの顔をマジマジと見つめる。
「ちょ、先輩…」
「だからさ、マジやめたほうがいいよ、この髪」
摘ままれた髪をパラパラと落としていく先輩は「昴嫌がるね、きっと」そう言って、クッと口角を上げると、先輩はあたしに背を向けて歩き出した。