恋の訪れ
「うーん…そうだけど」
「もう莉音は特別だから4個くらい買ってやるから。この前、美咲が買ってたやつな」
「えっ、ホントに?あれ超おいしかったんだ」
「おー、まかせとけ。だから来て」
「分かった」
ケーキ買って貰えるのなら彼女役なんて安いもんだと思った。
連れて行かれた所は、空き地で退屈そうにフェンスで背をつけて立っている女の子。
見た感じでは中学生だとは思えない。
こんな大人っぽい中学生も居るんだな、なんて思ってると、
「ほんとに居るんだ。聖(こうき)の女」
不意に呟かれた弟の名前を、今ここで初めて知った。
昔だとは言え、昴先輩の名前すら忘れていたんだから、この弟の名前も覚えてる訳がない。
「だから言っただろ居るって」
「ふーん…年上?」
「そう」
「好きなの、本気で」
「そうだって。だからこれで分かったろ?」
なんて二人の会話に、ただあたしは佇むしかなかった。
もう、なんでもいいから早くケーキが食べたいしか、頭の中になかった。
「って言うか、彼女居るのにあたしと寝るんだ」
「えぇっ!?」
そう、つい声を漏らしてしまったのは、このあたし。
いや、待って。あたしは聖くんとは付き合ってないけど、どこかで聞き覚えのあるこの言葉に眩暈がしているだけ。
目の前の女は、あたしの彼氏だと思ってるからブチまけてるんだろうけど、あたしはその驚きじゃない。