恋の訪れ
「莉音が倒れた時も助けてもらってさ、家まで送ってくれてさ、こんな優しい先輩居ないと思うけどー」
「だ、だからそれはね、あたしの耳が…」
「耳がって言ってるけど、弘晃も莉音の耳の事知ってるじゃん。莉音が辛い、痛いって言ってても弘晃は何もしてくれないじゃん」
「でも昴先輩は俺の責任だって―――…」
そこまで言って、これ以上何も言えなくなった。
これは先輩の責任でも何もないから、これ以上あたしの口からは何も言えなくなった。
「って言うか、」
困ってるあたしの間に入り込んだ香澄先輩の声が小さく入り込む。
壁に背を付けて、パックのカフェオレのストローを咥えて離すと、
「責任とかどうこうじゃないじゃん。困ってる莉音を助けるか、助けないか、でしょ?…違う?」
相変わらずクールな口調ぶりをする香澄先輩に、また口が紡ぐ。
なんでか香澄先輩の言葉には返せない時が度々ある。
「だよねー…」
なんて真理子の納得の声が聞こえ、更に言葉を失ってしまった。
だからその日を境に、何故かあたしの頭の中はヒロくん=昴先輩になってて、正直自分にでもよく分かんなくなってた。
ヒロくんは優しくて好青年って、ただ思ってるだけで。
昴先輩は、ムカつくけど、物凄くムカつくけど案外、優しいって気づかされてたんだ。
でも、そう思ってたんだけど、
そう思ってたけど。