恋の訪れ

「…莉音?」


そっと呟かれた声。

先輩はあたしの右耳に近づき、頬に触れる。


流した涙を拭う様に、昴先輩は優しく触れた。


「俺の声、聞こえる?」


声を出さずにコクリと頷くと、先輩は表情を崩したまま一息吐く。


「莉音、ごめんな」

「……」


その言葉にまた新たに涙が頬を伝った。


「さっき真理子ちゃんから俺が係わってるって聞いた。もう莉音が嫌だって言ってた事。なんで言わねぇの?」

「……」

「ごめん、莉音。…お前の耳また俺が―――…」



もうそれ以上聞きたくない。

むしろこのまま全て何もかも聞こえなくなっちゃえばいいって思った。

だからシーツを引っ張って、顔全体に隠した。


もう、先輩は見たくない。

もう、誰の声も聞きたくない。


ほんとに、ほんとに、もう聞きたくなんて、ない。

なんで言わねえのって、そんな事、言えるわけもないし、言ったらどうにかなってたの?

だから係わりたくなんて、なかった。


でもそう思ってても、昴先輩だけが悪いんじゃないって分かってる。


あたしだって、悪いんだ…

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