恋の訪れ

シーツを被ってても全く聞こえないわけじゃない。

ガヤガヤと騒がしい声が、シーツを通して聞こえてくる。


完全に左だって聞こえないわけじゃない。

ただ、いつもと違う膜が張ったようにボワンとするだけ。


ガーゼの所為か、少し違和感があるだけ。

正常な右耳でちゃんと音も拾える。


「…莉音?心配してみんな来たよ?」


肩を揺すられるお姉ちゃんの声。

だからってシーツを剥ぎ取って顔なんて出したくない。


「莉音?大丈夫?…って、大丈夫なわけないよね」


声からして分かった。

沈んだ香澄先輩の声。


「ごめんね。来てくれたのに…」


深いため息とともに聞こえてくるお姉ちゃんの声に、固く目を閉じた時、


「って言うか昴!あんたなんなの?どんな女とつるんでる訳?」


今までに聞いたことのないような声を出したのは香澄先輩だった。


「…どうにかすっから」

「はぁ!?どうにかって何?なった後じゃ遅いでしょ!!」

「おい、香澄、ちょっと落ち着けよ」


会話の中に入り込んだのはサクヤ先輩の声。

だけど、いつものクールな香澄先輩ではなかった。


「落ち着ける訳ないでしょ!?これはねぇ、アンタ!サクヤにも言える事なんだからね」

「分かった、分かった、分かったから」

「分かってないでしょ!!」


もう、やめてよ。

こんな所でやめてよ。

もういいから…なんて思った時、


「おー、タツキ。分かったのかよ」


タツキ先輩までも来たのか、サクヤ先輩の声で何故か息を飲んだ。
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