恋の訪れ
暫く経って静けさの空間の中、「あ、ママかも」お姉ちゃんの声が微かに聞こえる。
「莉音はどう?これ着替えね」
「ありがとう」
「みんな、ごめんね来てくれて。先生はなんて?」
「聞こえてるのは聞こえてるけど、物凄いストレス感じてるから検査するって」
「そう…」
「パパは?」
「車で待ってる。なんだろーね、莉音の顔見れないって」
「見れないって言うか、もうこんな状態だし。この子、顔出さないし。パパ待ってんだったら帰ったら?明日仕事でしょ?」
「って言うか、あなた達だって学校じゃない」
「ま、そうだけど。でも後は大丈夫だから」
「そう?じゃあ分かった。時間も遅いからみんなも気を付けて帰ってね」
ママの声を聞くと何故だか余計に胸が苦しくなる。
ママの顔を見てギュッと抱きしめて泣きたい。って、そう思った。
もう、そんな子供じゃないし。っていつも言ってるのに、何でか今はママに縋りつきたかった。
「俺らも帰ろ、香澄…」
暫くしてサクヤ先輩の声が聞こえる。
「大丈夫だよ、香澄。来てくれてありがと。サクヤに送ってもらいな」
「うん。…莉音、また来るね」
そっと身体を触られた感覚に香澄先輩の優しさを感じる。
いつだって大人な雰囲気をだす香澄さんまでもが今日は違った。
ザワザワとしてた室内は静まり返り、お姉ちゃんが荷物を整理しているのか、その紙袋の音だけが密かに聞こえる。