恋の訪れ
「どうしたんですか?」
「いや、てか飯食ったら?」
そう言った先輩はさっきまで座っていたパイプ椅子に腰を下ろす。
「うーん…お腹減ってないな」
「減ってないって夜も食ってねーんだから」
「うん」
仕方なくパンを少しだけ食べた。
何でか分かんないけど全くお腹なんか空いてない。
そんな事より、あたしはいつ退院出来るんだろうって、そればかりずっと考えてた。
10時になって看護師さんが現れると、昴先輩は「また来っから」そう言って姿を消したまま、その日はずっと来なかった。
別に来てほしい訳でもない。
むしろもう会いたくなんてないって思ってたから。
その日の夜はママが来てくれた。
あたしの事を悲しませないようにか、笑みを浮かべてたけど、ママの表情を見ただけですぐに分かる。
寂しさを隠して笑うママの姿。
パパは姿を現せなかったけど、心配してるってママが言ってた。
そりゃそうだよ。ちょっと遅くなっただけで、いつも怒るんだから。
怒るって言うかうるさい。
それに正直言って、パパの顔も見れない。
病院生活って言うのは慣れない。
疲れるし、余計にストレスが溜まりそうって思った。
慣れないこの空間に、慣れないこの臭い。
好きな絵だって何も描く気が起こらない。
退屈だと、思ったその次の日―――…