恋の訪れ
「どした?」
ヒロくんの声で我に返る。
「あ、ううん。何でもないよ」
「ってかプリント?」
ヒロくんの視線はあたしの手元に移り、思わず顔を顰めた。
「そうなの。でも仕方ないよね。家じゃ捗らないから学校でしようと思って…」
「俺、今日バイトねぇから教えてやるよ」
「えっ、ほんとに?」
「うん。放課後、莉音の教室に行くわ」
「うん。ありがとう」
ヒロくんと別れて教室に入って、真理子に告げると、
「莉音って、ほんと馬鹿だよね」
いつもの真理子になってた。
「でも…分かんない事だらけだし。ヒロくん優しいよね」
何枚かあるプリントをペラペラ捲って、問題を見つめるものの、本当に頭が悪い所為か全く分からなかった。
「弘晃ねぇ…優しいのは莉音だけじゃないと思うけど。アイツは女の子皆に優しいよ。莉音だけが特別じゃないし」
「うーん…」
「ま、もう好きにすれば?莉音の″ヒロくん″って言うのも疲れたし」
「そんな事、言わないでよ…」
「って言うか、昴先輩、調子悪いんじゃない?」
「えっ?」
「分かんないけどさ、朝正門で会った時、いつもと雰囲気違うかったし。なんかあった?」
覗き込むようにそう言ってきた真理子に素早く首を振る。
あんな事、真理子に言えるわけがない。
真理子は「ふーん…」と言って、始まりの合図で自分の席に戻って行った。