恋の訪れ
だけど、悔しいけど顔は端正すぎる。
真理子が言った様に一番の上玉だとは思う。
アッシュの髪を無雑作に遊ばせたこの男の顔は端正過ぎる。
女なら誰でも見惚れてしまう程のこの端正な顔なのに、残念ながら性格は宜しくないと、分かってしまった。
一度寝て捨てるような人とは係わりたくありません…
あまりにも見てしまっていた所為か、それに気づいた昴先輩はスッと顔を上げる。
だから思わず視線を逸らしてしまった。
まるで、その瞳が“何だよ”って言いたそうで、それとも“盗み聞き女”とでも言いたそうな表情だった。
ってか、そもそもあたしを覚えてる訳がない。
同じ学校なのに一度も見たことが…ってあれ?
ふと頭に過ってしまった“昴”と言う名前。
「ね、ねぇ…」
真理子に耳打ちすると笑いながら顔を向けた。
「何、莉音?」
「昴先輩って、あの人だよね」
「あの人?」
真理子はキョトンとした顔であたしを見つめた。
確か、女達がキャーキャー騒いでいる人。
その男を中庭のベンチで寝転がっている姿を何度か見たことがある。
しかも桜の木の下で。
あまりにも桜と不釣り合いすぎて覚えてる。
だからと言ってあたしは興味もなかったし、顔も知らない。
「ほ、ほら…学校内の有名な先輩だよね?カッコいいけど誰も近づけないって、…そんな感じの人だよね?」
「だからそう言ってるじゃん」
案の定、真理子からはそんな風に返されて、視界が揺らぐ。
…やっぱ、悪魔じゃん。