恋の訪れ

「莉音?」

「ヒロくん、あのね。あたし…」


何故か口が閉じてしまった。

ちゃんと返事しなきゃいけないのに、思うように口が動かない。

そんなあたしにヒロくんは優しくフッと笑う。


「別にいいよ。莉音さ、芹沢先輩の事好きだろ?」

「えっ?」


思わず俯いていた顔が咄嗟に上がる。

目の前のヒロくんは口元に笑みを浮かべ、そして悲しく笑った。


「莉音がさ、芹沢先輩と話してるの良く見かけてたから」

「そっか」

「もしかしたら莉音は俺の事…なんて思ってたけど、俺の勘違いだった」

「……」


違う。違う。勘違いなんかじゃない。

あたしはずっとずっとヒロくんが好きだった。

ヒロくんに彼女が居た頃もずっとずっと好きだった。


ほんとに好きで、たまらないくらい好きだった。

なのに、それをヒロくんに言えない。


どうしよう。

不意に涙が走った。


慌てて涙を拭うと、ヒロくんはあたしの頭をポンと撫でる。


「うーん…でも、これからもいつも通りにしてよ」

「…うん」

「じゃあな莉音」


スッと手が離れたと同時にヒロくんは背を向けて歩き出す。

ヒロくんの背中を見て何故か罪悪感を感じてしまった。


もっと早くヒロくんが言ってくれてたなら、あたしは今頃ヒロくんと…なんて思ったりもした。

そうかもっと早くにあたしが言ってたなら、今頃ヒロくんと。なんて思ってしまった。


そんな事を考えながら着いた場所は、


昴先輩の家だった。










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