恋の訪れ

家の前で呆然としてしまった。

チャイムを押す前に居ないって事が分かる。

駐車場にあるすべての車が何もないから。


昴先輩は何処に行ったんだろうか。

もう5日も学校に来ていない。


ここに居たら帰って来るかな、なんて暫く佇んでしまったけど時間が過ぎていくばかり。



「おい、莉音。お前、何やってんの?」


突然聞こえた明るい声に顔を上げると、不思議そうに近づいてくる聖くんだった。


「聖くん、」

「あー、そうだ莉音。お前、入院してたんだろ?大丈夫かよ」

「うん」

「あ、そうだ。退院祝いにケーキ買ってやる。な?」

「ねぇ、昴先輩は?」

「うん?兄貴?さぁ…」


聖くんは顔を顰めたまま首を傾げた。


「さぁ…って?」

「兄貴の事なんか知らねーし、一週間くらい見てねーけど」

「えっ?一週間も?何処行ってんの?」

「だから知らねーって。それより莉音の好きなケーキ特別に6個買ってやる」

「いらない。そんなに食べれないし」

「んじゃ、3個にしとく?」

「だからいらないよ」

「あー、あれか。お前ダイエットしてんの?」

「違うよ」

「変なの。いつものお前じゃないから調子狂うわ」

「…帰る」


小さく呟いて背を向けて歩き出す。


「おーい、莉音。なんなの、お前ー」


なんて弾けた声が飛んでくるけど、あたしはその声を無視して足を進めた。
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