恋の訪れ
終業式の日。
昴先輩は来ていなかった。
サクヤ先輩に聞いても、知らないって言うばかりで誰も何も知らない。
何でだろう。何してんだろう。と思う、このどうしようもない不安があたしの中で押し寄せてた。
「…ただいま」
聞こえるか聞こえないくらいかの小さな声で呟く。
玄関の扉を閉めた時、
「ギャー、なんなのよ、これ!ちょっとパパも手伝ってよ」
「そんな事、出来るわけないだろ」
張り叫んだお姉ちゃんの声と、困ったパパの声が玄関先にまで聞こえてた。
「あ、莉音おかえり」
ソファーに座ってたパパは振り返って苦笑いを漏らす。
「何してんの?」
「うん?香恋がな、クッキー作ってんだって。莉音も食えば?」
目の前に皿を差し出したパパに顔を顰めた。
「焦げてない?」
クッキーの形はしているものの、ホットケーキみたいで黒ずんでる。
匂いも焦げ臭い。
「うーん…ビールと食ったら食えたぞ」
「えっ!?食べたの?」
「香恋が食えっつーからな」
「お姉ちゃんって、やっぱ鬼だよね…。誰に似たんだろう」
「うーん…俺じゃないけどな」
「ママでもないでしょ…」
困った表情をするパパは、もう紛らわすかの様にタバコを吸ってビールを飲み干してた。