恋の訪れ

「あー、莉音。ちょっと食べてみ、これ」


お姉ちゃんは新たに持ってきた皿をつき出す。


「なにこれ」

「何ってクッキーでしょ。さっきね焼いたの」

「パンケーキの焦げたやつみたい」

「はぁ!?なんならパパも食べてよ。これ今焼いたから」

「いや…俺はもういいよ」


勘弁してほしいって感じのパパは顔を顰めたまま、再びタバコに火を点ける。


「って言うか、お姉ちゃん…どうして自分で作ってるの?いつもあたしに頼むのに」

「ちょっとはさー自分でしてみようかなっ、てね」

「辞めたほうがいいんじゃない?雨降りそう…あたしが作ってあげる」

「えっ、ホントに!?ありがとう、助かる!!大好きな妹よ」

「ちょ、お姉ちゃん。制服汚れちゃう」


真っ白な手で抱きしめて来るお姉ちゃんに、ため息を吐く。

お姉ちゃんには何だかんだ言って、助けてもらってるし。


「で、莉音ちゃん。夕方までに間に合う?」

「うん」

「さっすがだね!」

「って言うかさ、これって自分が作ったーなんて言って店で配ってるんでしょ?」

「当たり前じゃない。莉音、よろしくね。あたしお風呂入ってくるから」


バタンとしまったドアを見つめて、パパの前にしゃがみ込む。

パパと目が合った瞬間、「怖いよね」なんて呟くとパパは苦笑いで首を傾げた。
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