恋の訪れ
着いた頃にはもう日が沈んで辺りを暗くさせる。
玄関の前で佇んで、チャイムも押せない。
昴先輩の車は、ある。
あるからと言って居るとは限らない。
だけど来たものの、何を言いに来たんだって思った。
そんな事、何も考えてない。
ガチャっと不意に開いた玄関に身体が少し飛び跳ねる。
目の前から出て来たのは昴先輩で、その姿に思わず目を見開いた。
のは、あたしだけじゃなく昴先輩も同様、目を見開いてた。
だけど、すぐにいつもの表情に戻し、
「お前…急に来んなよ。何しに来た?」
私に背を向けて鍵を掛ける。
何しに来たって言われても、あたしにも分かんないから答えが見つからない。
「聞いてんの?」
「……」
「おい、莉音?」
「…はい」
身構える先輩にあたしは鞄の中から取り出したクッキーを差し出す。
「何?」
「おすそ分け」
「は?おすそ分け?」
「うん。お姉ちゃんに頼まれたから作ったの。だから昴先輩にもあげる」
「ってか、なんで香恋さん?」
「お店の客に配るんだって」
「はぁ?お前が作ったのに?」
「うん」
「やっぱお前のねーちゃん、すげーな」
昴先輩は呆れた様に呟き、あたしを見て微かに笑う。