恋の訪れ

「別に何もないし」


小さく呟くと、香澄さんはあたしの覗き込むように顔を見つめる。


「何もないって事はないんじゃないの?」

「そうだよー、だって莉音さ。弘晃に勉強教えてもらったのに何も浮かれないの。いつもだったら馬鹿みたいに騒ぐのにさ」

「退院してからホントおかしいよね、莉音。それにサクヤに昴の事、聞いてたんでしょ?サクヤが言ってたよ」

「えー、莉音。あたしの知らない所でそんな事きいてたの?でも昴先輩って、学校来ずに何処行ってんだろ…」


真理子は不思議そうに首を傾げ、顔を顰めた。


「さぁ…あたしも知らないけど」

「凄いモテるのは分かるけど、なんか謎だよね。でも莉音には特別みたいなー」


蔓延の笑みで見つめて来る真理子に、「そうでもないけど」素っ気なく返す。


「あら、どうしたの莉音?昴と喧嘩でもした?」

「してないよ、喧嘩なんて」

「じゃあ、どうしたの?ここ来てからずーっと元気ないじゃん。泣きそう…」


そんな事を香澄先輩は言うもんだから、なぜか目尻に涙が溜まった。

正直言って、昴先輩はよくわかんない。

優しくなったと思えば冷たくなる。


ほんと、分かんない…

昴先輩が、分かんない。
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