恋の訪れ
「大丈夫。後で昴に返してもらうから」
口角を上げた先輩は立ち上がって、「タクシー拾うわ」そう言って部屋を出た。
「莉音、何が何だかわかんないけど、昴先輩に会って来るんだよー。で、後日の報告楽しみにしてるね」
真理子は何故か気分上昇中で、楽しそうだけど。それに比べてあたしは全然いい気じゃなかった。
勝手に話がトントン進んで行って、断る理由すら見つからず言うタイミングすらも失った。
外の大通りまで行くと、丁度サクヤ先輩がタクシーを停めてくれて、それに乗り込むと行き先を先輩が伝えてくれる。
それはここよりもずっと都会の中心地だった。
「莉音、じゃーね」
香澄先輩は顔を覗かせたと思うと、あたしの手にさっきサクヤ先輩が渡した一万円札が握らされる。
「ありがとう…」
手を振る真理子と香澄先輩に軽く手を振り、タクシーは発進していく。
乗ってしまったものの、着いてどうすればいいんだと思った。
ちゃんと昴先輩に会えるんだろうか。
しかも何から話していいのか。
昨日、会ったばかりなのに。
もしかして、昨日の急いでるってのは、そこに行くためだったんだろうか。
いつも遅刻魔で、ルーズだと思っていたけど、それが原因だったんだろうか。
分かんない。
初めから思ってたけど、昴先輩って、謎。