恋の訪れ
そんなあたしの表情に笑みを零す先輩だったけど、スッと一瞬にしてその笑みを消す。
短くなったタバコを灰皿に押し潰し、
「だから5年くらい待って」
そう言って、先輩は一息吐いた。
「それって医者になるって事だよね?」
「そう」
「あたしの所為で?」
「莉音の所為じゃねーし」
「昴先輩は…パパの後を継がないの?」
「え、なんでそっちに話飛ぶ訳?」
「だって…」
「聖がいんだろ、アイツが」
「そっか…。でもあたしの耳、このままでも大丈夫だけど。むしろ、聞こえてるし?それに…手術して治るんだったら、もうしてるし?」
「つかそれ本気で言ってんの?」
「…え?」
何が?と思い、昴先輩に視線を送る。
向けた瞬間、かち合った瞳が何故か逸らせられなかった。
「お前の耳、出来ないから手術してねーの出来てたらとっくにしてる」
「どー言う事?」
「手術するには特殊で難しいから海外行かなきゃなんねーの」
「え?だって軽い難聴でしょ?みんな言ってたじゃん」
「そうだな。俺が言うなって口止めしてっからな」
「え?誰に?」
「香恋さんに。それを葵ちゃんに伝えてもらってた」
「なんで?」
「なんでってお前が悲しむから。それに…あの時、莉音が入院した結果。ほんとは良くねーの、お前の耳」
「……」
淡々と話してる昴先輩がよく分からなかった。
まるでロボットか映画のワンシーンを見てるような感覚。
その言葉をあたしに向けて言ってるんだとは全然思えなかった。